大学教員等の任期制「法制化」に反対する
        富山県大学等教員有志アピール
昨年10月29日、大学審議会は、「教員の流動性の向上による教育研究の活性化」を
はかるためとして、「大学教員の任期制」導入のための法制の整備を答申しました。「十
年一日の講義ノートで論文も書かない教授が住む『愚者の楽園』」(96年9月27日付朝日
新聞社説)というのが日本の大学の一般的な姿であるとは思いませんが、現在の大学が、
様々な問題に対して十分な自浄能力がなかったり、「ぬるま湯的」であることは否定でき
ません。その意味で、「自己改革を怠り、外部から任期制という劇薬を処方される事態を
招いた大学人は、不明を恥じるべきではないか。」(同社説)という指摘は真摯に受け止
めなければならないと思います。しかし、いま準備されている任期制の「法制化」は、大
学における教育研究の活性化に資するというよりは、むしろより多くの弊害をもたらすも
のであるとわれわれは考えます。
大学教員の解雇合法化につながる
 文部省は、現在開会中の通常国会に、大学教員等への任期制の導入を可能にする法案を
提出しようとしています。現行法制下では、大学教員に任期制を導入しようとすると、
(1)国立大学教員に任期をつけて雇用することを禁じている国家公務員法・人事院規則、
(2)1年以上の期間を定めた労働契約を禁じている労働基準法第14条(私立大学教員
の場合)の2つに抵触するためで、おそらく特別立法という方法でその法整備をはかるも
のと考えられます。これによって、任期が切れた時点で大学教員を合法的に解雇すること
が可能になります。これは、戦前の反省に立ち、学問の自由と大学自治を守る上での重要
な柱として戦後確立された、大学教員の身分保障を制度的に崩壊させるものです。
すべての職階を対象にする任期制は世界に例がない
 大学審議会答申は、任期制の対象教員について、「制度上は、教授から助手まですべて
の職を対象にし得る」としています。すべての職階を対象とするような任期制は世界に例
がなく、労働者・生活者としての大学教員の身分は極めて不安定なものになります。
任期満了と同時に退職が原則に
 任期制が導入されても、「一定の研究業績等の基準を達成していれば再任される」とい
う理解が一般にはなされているようですが、大学審議会答申は、任期切れ後の再任につい
て、「再任とは再びその職に採用するということであることから、通常の採用手続きに基
づき、選考を行うことになる」と述べています。これは、任期切れと同時に退職が原則で、
教授から助手までのすべての職を対象に、任期切れ毎に、一般公募して、そのポストの選
考を一からやるということです。それまでその職に就いていたからといって優先されるわ
けではないのです。
大学教員のリストラの手段にされる
 任期切れと同時にそのポストが改組等でなくなってしまった場合は、同じポストに再任
されることはなくなります。これを悪用すれば、大学教員のリストラを合法的にやること
ができます。18歳人口が減少し、大学が生き残り競争に突入している現在、任期制が
「法制化」されれば、私立大学を中心に、大学教員の大規模なリストラの嵐が吹き荒れる
ことは必至です。国立大学の民営化の動きも出てきている中、国立大学教員のリストラも
ないとはいえません。
大学の教育研究は疲弊する
 任期制による大学教員の身分の不安定化は大学の教育研究に何をもたらすでしょうか。
 (1)優秀な人材が大学に集まらなくなる
   分かりやすく言えば、大学教員は、住宅ローンも組めないような不安定な職業にな
  るわけですから、優秀な人材が大学に集まらなくなり、大学の教育研究を人材面から
  掘り崩すことになります。
 (2)地道で息の長い研究ができなくなる
   文科系など、分野によっては研究の質を評価する基準が必ずしも確立されていない
現状の下では、もっぱら業績の量を追求する悪しき業績主義がはびこることが危惧さ
れます。また、任期中に形になる研究業績をあげることが求められるため、大学でな
ければできないような、地道で息の長い研究ができなくなり、長期的にはわが国の研
究に退潮傾向をもたらすことになるでしょう。
 (3)教育がないがしろにされる
   教育活動の評価は研究業績以上に評価が困難であり、また、その成果は外からは見
えにくいものです。したがって、学生教育に注ぐ労力は最低限に押さえて、あとはす
べて研究業績づくりに励むという研究偏重・教育軽視の風潮が広がることが危惧され
ます。一つの大学に腰を据えて、熱心に学生教育に当たるような教員はいなくなるの
ではないでしょうか。大学院の博士課程などでは、5年間の在学中の途中で指導教官
が他大学へ移動することなども頻発することになり、継続的な学生指導などできなく
なります。
真に教育研究を活性化するためには
教育研究を活性化するためには、国立大学でいえば、低く押さえられてきている基礎的
研究費や、国内学会に1回参加できるかどうかの研究旅費の増額、諸外国と比べて極端に
少ない研究補助員の配置の改善等、物的、人的条件の改善が必要なことはいうまでもあり
ません。しかし、最後は、われわれ大学教員の努力如何にかかっているといわなければな
りません。そして、大学全体としての教育研究の活性化は、学生教育のあり方や改善方策、
研究業績の公正公平な評価方法、採用人事・昇任人事における選考のあり方などに関して、
われわれ大学教員が不断に自己点検を行い、改善の努力を積み重ねていくなかでしか実現
できないのではないでしょうか。教育研究の活性化とは、本来、各大学におけるこのよう
な自律的自発的営為の中でこそ遂行されるべきものであると考えます。大学教員の身分を
極めて不安定なものとする任期制「法制化」は、学内行政への無関心や教育軽視の風潮を
助長するものでこそあれ、教育研究の活性化に資するものだとは思われません。
 われわれは、以上の立場から、大学の学問、研究、教育の発展を阻害する大学教員の任
期制「法制化」に強く反対するものです。
1997年4月25日
呼びかけ人
富山大学
人文学部
梅村智恵子(教授)中 純夫(助教授)中河伸俊(教授)
中本昌年(教授)永井龍男(助教授)丹羽弘一(講師)
矢澤英一(教授)若尾政希(助教授)
教育学部
淡川典子(助教授)榎沢良彦(助教授)椚座圭太郎(助教授)
内藤亮一(助教授)広瀬 信(助教授)室橋春光(教授)
山根 拓(講師)横畑泰志(助教授) 渡辺 信(助教授)
経済学部
飯田剛史(教授)小倉利丸(教授)角森正雄(助教授)
小松和生(教授)坂口正志(助教授)篠原 巌(助教授)
竹川愼吾(教授)堂谷昌孝(助教授)星野富一(教授)
理学部
川崎一朗(教授)小林武彦(教授)近堂和郎(助教授)
鈴木邦雄(教授)竹内 章(助教授)浜本伸治(教員)
安田祐介(教授)山田恭司(教授)
富山工業高等専門学校
岩井正雄(教授・教職員組合委員長)田島俊彦(教授)
以上 36名
賛同者
  富山大学、富山県立大学、富山国際大学、富山女子短期大学、富山工業高等専門学校
教員339名(含呼びかけ人)。
   内、富山大学、富山工業高等専門学校については、過半数の教員の賛同を得た。
大学教員への任期制の導入は、大学教員の身分を不安定にするとともに、大学の教育研
究に重大な悪影響を及ぼすことが懸念されます。
われわれは、大学教員の間での合意形成をまったく行わないままに、現在国会に上程さ
れている「大学教員等の任期に関する法律案」を強行成立させることに強く反対します。
事務局 930 富山市五福3190/富山大学教育学部/広瀬 信/TEL・FAX 45-6366