富山大学への教員任期制の導入に反対する
                     富山大学教職員組合中央執行委員会
                             1997年4月10日
 富山大学教職員組合中央執行委員会は、昨年12月の学長交渉における現学長の任期
制に関する見解および、先頃閣議を通過したいわゆる「任期制法案」について、以下
のような見解を中央執行委員会でまとめた。
96年12月の学長交渉における学長の見解に対する批判
はじめに
 昨年12月18日に行われた学長交渉において、小黒学長は、任期制導入について、「
(大学審議会の)答申がでた以上、反対する、賛成するという問題ではない」と述べ
、「国大協としては教員の流動性を高めるという大義名分には、逆らえない」という
表現で、事実上任期制導入の流れには逆らえないとする立場を明らかにした。
 たしかに、任期制導入の動きは、大学審議会の答申として出され、さらに文部省は
法制化のための具体的な作業をおこない、その法案が閣議を通過した現状をみたとき
、任期制の法制化の危機が高まっていることは事実であろう。
 しかし、教員の教育、研究、生活の条件すべてにわたって根本的な変更を伴う任期
制の導入を、大義名分には逆らえないとか、状況からいってその是非を議論している
時ではないなどといってすますことはできない。任期制の導入が、文部省や大学審議
会が主張するような、大学教員の研究・教育の向上をもたらすという見通しにどれほ
どの客観的な根拠があるのか、また、富山大学の現状からかかる任期制の導入が果た
してどれだけの意味があるのかについて、議論を重ねその是非も含めて判断する必要
がある。
 大学審議会の答申でも法案でも、任期制導入は、大学全体に一律に行われるわけで
はなく、選択的任期制の導入という名目で各大学の実情に応じてその導入の意思決定
は各大学に委ねられるとしている。その導入については、各大学の判断に委ねられる
という内容になるはずであり、任期制の導入については、それを拒否することも受け
入れることも、各大学の判断に任されている。とすれば、文部省の意向に唯々諾々と
して従うのではなく、富山大学として独自の意思決定をすることが可能であり、また
、それがなによりも求められているのである。
 わたしたちは、昨年暮れの学長交渉における学長の判断をふまえて、現状におい
て、また近い将来において、富山大学において、教員の任期制を導入する必要性はな
い、と考える。その理由を、学長交渉における学長発言への批判及びその他慎重に検
討すべき課題に即して、述べる。
学長による現状評価について
(1) 任期制導入が大学審の指摘する諸問題の解決策となる理由が示されていない
 大学審議会が指摘した大学の現状における問題点とは、教官の教育が学生のニーズ
、社会のニーズに対応していない、国際的な競争に耐えうる研究水準が達成されてい
ない、学生の知的好奇心を触発・持続させる充実した授業内容が少ない、伝統的な学
問分野の枠組みにとらわれすぎた研究体制になっている、自由な競争的雰囲気の欠如
、能力のある若手研究者の大学離れ、民間企業流出や海外流出が生じている、自校出
身者比率が高く人材交流に乏しい、といった諸点である。 わたしたちは、学長交渉
において、上記の問題点を逐一とりあげて、富山大学の現状はどうなのかについて学
長の判断を求めた。(富大職組ニュース38号参照)学長の評価では、部分的に妥当す
るとはしながらも、総じて緊急に改善しなければならない深刻な問題としての認識は
示されなかった。また、任期制導入が富山大学が抱える現状の諸問題の解決に寄与す
るとする論理的な筋道も示されなかった。たとえば、任期制の導入が現状以上に学生
や社会のニーズに対応できるものであり、学生の知的好奇心を触発する教育システム
となりうる理由は示されなかった。また、人事の流動化が現在以上に進展することに
よって、富山大学のような地方の国立大学において現在以上に優秀な人材が集まると
いう保証があるといえる理由についても、明確な発言はみられなかった。
(2) 企業のリストラと同様、単なる財政支出削減策なのか
 しかし、学長は、企業のリストラを引き合いに出して、「国立の教官で何年も何も
していない人もいることは確かだ」と指摘した。これは、一般論として「国立の教官
」を指しているのか、あるいは、富山大学の教官を念頭に置いているのか定かでなく
、客観的な裏付けのある発言ではなく、学長の単なる主観的な感想であると理解して
いる。
 企業のリストラは、コスト削減のために行われるものである。任期制導入もまた、
文部省、大蔵省の財政支出削減策として行われるということなのであろうか。もしそ
うであるとすれば、大学審の答申ではこうした観点は全く示されておらず、非常に問
題である。表向きは、大学審答申の理屈を掲げつつ、現実には財政支出削減策として
の任期制の導入ということであれば、任期制導入を大学の研究・教育に意味あるもの
と評価する立場の教官、大学関係者をも裏切るものである。
 そもそも企業のリストラを大学の機構改革に当てはめることには大きな誤りがある
。企業のようにコストを削減して利益を確保することが必要な組織のリストラは、「
利潤」という基準があるが、国立大学のビヘイビアはそうした市場原理に支えられた
ものではない。研究・教育は、市場原理やそれに基づく競争原理によって評価しうる
ものではない。
 もし、企業のリストラを引き合いに出すというのであれば、わたしたちは、企業の
リストラで優秀な労働者たちが職を奪われた多くの事例を想起せざるをえない。経営
者の判断する優秀かどうかという基準はわたしたち働く者の立場に立つ労働組合が採
用する基準にはなり得ないということを指摘しておきたいと思う。
 学長は、「国立の教官で何年も何もしていない人もいることは確かだ」と語ってい
るが、何もしていない教員はいない。「何年も何もしていない人」という言い方は、
多分「何年も研究業績を発表していない人」という意味であろう。しかし、こうした
従来の教員への評価のあり方自体を大学審議会は批判していたのではなかったか。研
究業績の数(質ではない)が少ない教員は、それだけをもって何もしていないとはい
えない。教育活動の評価や、地域社会への寄与など多角的な視点での判断が必要なは
ずである。
いくつかの危惧すべき点
以上の他、学長交渉の席上学長から示された見解ではないが、大学審議会の答申に関
して、以下の問題点を指摘しておきたい。
(1) 教員評価は正しく行われるか
以上のように、任期制の状況に精通しているとおもわれる学長の場合ですら、教員の
評価については、必ずしも正しい判断にたっているとは言えない。任期制が導入され
た場合、再任するか、任期切れで退職をすることになるか、という判断を常に行うこ
とになる。特に、任期制のポストに採用されている教員が再任を希望しながら、人事
組織では再任を拒否するといったケースが生ずることも大いに考えられる。こうした
場合、いかにして公正な措置をとりうるか。少なくとも現状の人事制度ではこの点で
問題がないとはいえない。
(2) 財政支出削減策としての任期制導入でしかないのではないか
各部局等にたいして、現在定員削減の割り当てが行われているのと同じように、機械
的に任期制ポストが導入されるおそれがある。これは、任期制による研究・教育効果
についての適切な評価にもとづく導入とはいえず、人員削減や経費削減のための手段
として任期制が利用されることになる。
(3) まず導入して、それから問題に対処するという危険性がある
教養部改組の場合、改組の決定が先行して、様々な問題が先送りにされたことで教養
教育に大きな問題を残した。同様に、任期制導入でも、慎重な議論なしに、まず導入
という大枠の方針を決定するといったやり方は、結果的に教員の犠牲を強いることに
なる。
(4) 地方大学にとって、任期制導入はむしろデメリットになる
同じ地区に多くの大学が存在し、同一地域の他大学等へ転出する可能性のある大都市
部とちがって、地方大学では、任期制を導入した場合、遠方への転居にともなって、
研究・教育は完全に中断してしまう可能性がある。そのため、転出してしまえば、学
生、院生への指導は中断し、学生への教育効果上は大きなマイナスとなる。また、研
究成果をあげるのに長期の時間がかかるような研究は着手しにくくなり、地方大学に
おける研究対象の選択の幅が大都市部の大学に比べて狭められることになる。
文部省による任期制法案について
大学審議会答申を踏まえて、4月8日に、文部省は任期制法案を閣議に提出し、了承さ
れた。この法案について、下記の点で問題があると考える。
法案の目的についての問題点
 目的として、「大学等において多様な知識又は経験を有する者を教員等として確保
すること」(第一条)とあるが、こうした多様で豊富な経験者の採用は任期制によっ
てしか確保できない理由はどこにあるのか。こうした不安定な雇用でしかも給与等の
条件も悪くなる任期制ポストで果たして「多様な知識又は経験を有する者」を確保す
ることができるのであろうか。逆に、任期制は、優秀な人材の使い捨てにならないと
も限らない。
任期制を導入するポストについての条項の問題点
(1) 任期を定めることができる要件を第四条で定めている。その第一項で、「先端
的、学際的又は総合的な教育研究であることその他当該教育研究組織で行われる教育
研究の分野又は方法の特性にかんがみ多様な人材の確保が特に求められる教育研究組
織の職に就けるとき」とある。どのような学問であれ、「先端的」であることを目指
すのは研究者として当然のことであるとすれば、すべての研究職に任期制が導入され
るというこになる。また、最近の富山大学における学部改組、大学院設置等の中で、
学際的な研究が重視されるケースが増えていることをふまえると、「学際的又は総合
的な教育研究」への任期制導入条項は、新たな改組等にともなう任期制導入の根拠と
される危険性がある。
 同時に、「先端的、学際的又は総合的な教育研究」に取り組もうとする野心的な教
員や、学部の専門教育分野の枠組に含まれない研究教育分野を担当する教員ほど任期
制のターゲットとなり、不安定な身分を強いられるということになりかねない。
(2) 同上第二項には、「助手の職で自ら目標を定めて研究を行うことをその職務の
主たる内容とするものに就けるとき」とある。あえて、助手というポストを指定する
意味がどこにあるのか。法案の目的である「多様な知識又は経験を有する者を教員等
として確保する」という趣旨と一体どのように整合するのか不明である。 (3) 同上
第三項には、「大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を
行う職に就けるとき」とある。任期内に終了する短期的なプロジェクトをどのように
大学で決定し、どれだけの教官定員をかかるプロジェクトに振り向けるかといった現
実の運営を念頭に置いた場合、従来の学部における研究教育システムの大幅な変更を
強いることになる。本来、こうした短期的なプロジェクトを組んで研究者を招聘する
場合に、教官定員を利用することには無理がある。むしろ客員研究員等に制度を充実
させることが必要なのではなかろうか。
助教授以下のポストにいる現職にも導入される可能性がある
文部省による「法律案の概要」のよれば、任期制の導入は、「新たな任用(採用、転
任、昇任等)を行う際に任期を定めることとする」と説明されている。とすると、現
在助手、講師、助教授が昇任する場合、学部の改組等で他の講座等へ配置替えになる
場合などの際に任期制が導入される恐れがあるということである。教授の場合も、そ
うした恐れがないとはいえないが、昇任はありえないので、その危険性はかなり低く
なる。
 人事が教授のみを構成員とする人事教授会に委ねられている現状をふまえたとき、
場合によっては、助教授以下の若手の構成員にとっては、今回の法案が成立した場合
には非常に不利な立場に置かれる可能性がある。
まとめ
以上のように、任期制については、大学審議会答申および文部省による法案ともに、
多くの疑問点がある。法案にいたっては、審議会答申の内容とも食い違い、恣意的な
運用が可能な曖昧な表現に終始しており、とうてい是認できる内容とはいえない。
 また、富山大学の現状を見た場合にも、任期制を導入しなければならない必然性は
見当たらない。むしろ、任期制導入がもたらす研究教育上のデメリットの方が大きい
と判断せざるを得ない。
 富山大学教職員組合中央執行委員会としては、大学審議会の答申、任期制法案に基
づく任期制の導入は、教員の身分および研究、教育を著しく不安定にするものである
と判断せざるを得ない。また、現学長との交渉でもこの点の危惧を払拭することので
きる見解を得ることはできなかったと判断している。
 従って、富山大学教職員組合中央執行委員会は、現学長、次期学長候補、そして各
学部の学部長にたいして、任期制法案の成立に反対し、また富山大学への導入を行う
ことのないよう要望するものである。
 大学教員に対する任期制導入の問題について、執行部としては以上の通り見解表明
を行います。この見解内容に対してご意見、ご批判など有りましたら、ぜひ中執まで
お寄せ下さい。組合ニュースへの投稿も歓迎いたします。