大学教員任期制の法制化に反対する
                 埼玉大学職員組合執行委員会
 大学審議会は1996年10月に「大学教員の任期制について」という答申を出した。
これは、前年に出された中間答申を基本的に継承し、任期制の「法制化」をより強化した
内容になっている。埼玉大学職員組合は定期大会に於いて全会一致で「大学教員任期制の
法制化」に反対の立場をとることを決議した。
 法制化に関して、大学審議会の構成員はシンポジウムなどで、「任期制を導入するに当
たり現行法が妨げになるならば必要な法改正を行う。」、「現行法が任期制導入の妨げに
なるのならば、(導入しやすいように先行して)法制化を行うのがよいのではないか。」
という程度の認識で答弁を行っている。また、「具体的にはどの法律をどのように改正す
るのか。どのようなことになるのか。」という問に対しては、「専門家でないのでよくわ
からない。しかるべきところで充分に議論されるだろう。」という無責任な態度である。
とても「法制化」の持つ真の意味を考慮して議論したとは考えられない。
 東京大学・京都大学・筑波大学などの大学では、一部の部局において、現行法の下で任
期を付けた大学教員の運用を実際に行っている。これらの大学の学長・元学長の中には大
学審議会の構成員となっているにもかかわらず、この実例に関する詳細な内容は答申には
認められない。「研究者の流動化」は大学教員の任期制導入の目的の一つである。一般企
業において転職を考える際に最も妨げになっていることが、給与ならびに退職金の中断で
ある。一般企業に比べて大学における研究者の異動が多い理由は、現行法における「身分
保障」のためである。「法制化」はむしろ「研究者の流動化」を妨げることが充分に考え
られる。大学審議会は、「大学教員の任期制について」という答申を出す際に最も重要で
あると考えられる、現行法での「任期制導入の事例」について触れることなく、法制化を
行うために都合の良い答申を出したとしか考えられない。
 任期制導入の法案は1997年1月20日に開会された通常国会に「特別立法」の形で
提出される見込みである。「法制化」に関しては多くの大学関係機関・団体から反対意見
が出されているにもかかわらず、文部省は法案の内容を提出直前まで明らかにしないもよ
うである。
 新聞報道によると、この「法制化」は国家公務員法・労働基準法などの大学教員の身分
を保障した法律に関連し、いわゆる「大学教員の首切り法」となり得るとのことである。
「再任を妨げない・・・」(答申)とあるが、大学審議会は、再任における審査機関や内
容について具体的な答申すら行っていない。また、再任されても新任扱いとなる改正では、
現行での大学教員の給与・退職金・年金の機能が全く失われる。大学教員を「一生活者」、
「一労働者」と考えると、これは大学教員の「生活権」を奪うものである。
 また、大学や社会に対しては次のような問題点があげられる。
(1)大学自治の崩壊
 この「法制化」は大学自体にも危機をもたらす。大学は、教授会がその大学の運営に責
任を持つという民主主義の機能する数少ない組織である。しかし、近年、この教授会自治
もおびやかされてきている。「法制化」はこの教授会の構成員に直接およぶものであるの
で、さらに教授会自治を弱体化させる。大学が、アルバイト教員を雇い、教育・研究のみ
を行わせ、教官に大学運営を考える余地を与えなくなることで、「大学のコンビニエンス
・ストア−化」や「理念の無い大学」を招くおそれがある。
(2)大学における学問の自由の喪失
 大学において、教員が自由にテーマを選び、自由な形態で研究を行ってきた背景には、
大学教員の「身分保障」の担う部分が非常に大きい。学識経験者として、政府やいかなる
権力にも屈することなく自由に意見を述べることができたのも、現行法による「身分保障」
があってのことである。「身分保障」を失った大学教官は、「学問の自由」、そして社会
に対しての「発言の自由」も失われてしまうおそれがある。「法制化」は、日本の将来の
方向までをも左右すると言っても過言ではない。
(3)労働者全体への広がり
 日本の現行法において、その職務の遂行上の必要性から、身分が保障された大学教員に
対する「首切り法」の導入は、大学教員を突破口にして労働者全体に波及することは充分
に考えられる。現在、一般企業での「首切り」は「リストラ」という名の下に正当化され
つつある。しかし、「首切り」は決して正当なものではない。大学では、教員の低い給与
水準・少ない研究費・多種にわたる多忙な職務内容のもとで、「大学改革」という名の
「リストラ」が進められつつある。「大学教員任期制の法制化」は、その「リストラ」に
拍車をかけるようなものである。大学教員の「身分保障」は、労働者全体の身分保障の
「砦」ともなるのである。
 埼玉大学職員組合執行委員会は、大学教員任期制の「法制化」が大学教員そして大学自
体、さらには労働者全体・日本の将来にも大きな危機をもたらすことを広く訴えるととも
に、「大学教員任期制の法制化」の反対運動を進めて行くことをここに表明する。
                              1997年2月14日