大学教員の「任期制」法制化に反対する三重大学教員アピール
     
 政府はこの4月8日、大学教員に任期制を導入するための法案を国会に提出しました。
この法案は、大学教員に数年の任期をつけて雇用する制度を可能にしたものです。任
期を定められて任用(採用・昇任・配置換えなどを含む)された教員は、期限が来た
らいったん退職となり、あらためて公募等による「採用審査」に合格しなければ再任
されないことになります。任期付き教員が採用されるポストは、きわめて恣意的に決
められる可能性があり、実質的にはすべての教員にひろげていくことができるもので
す。たとえば現在の教員が昇任したり他部局へ配置換えになったりする際にも適用さ
れることが十分起こりえるものになっています。大学教員の驚くべき「解雇法案」と
いえるでしょう。
 大学が研究教育を活性化させ、社会的な責任を果たしていくことは私たちの願いです。
その意味で、現在大学の研究教育活動は問題を多く抱えているといえます。大学の研
究教育活動を活性化させたいという善意の素朴な「任期制賛成論」も配慮されなけれ
ばならないのも事実です。しかし、法案やそのもととなった大学審議会の答申がいう
ような、問題の根本が「人事の停滞」にあり、したがって人事の流動性を高めなけれ
ばならず、そのために任期制を導入するという論理にはにわかにはうなずけません。
私たちは任期制の導入が、次に述べるいくつかの点から、大学に大きな弊害をもたら
し、問題の解決をかえって遅らせるものと懸念し、強く反対を訴え、法案の撤回を求
めるものです。
 1.大学の研究教育をほんとうに活性化させるためには、直接学生や地域の人々、
国民の声を汲み上げながら、私たち自身の創意と熱意を集約していく大学のシステム
を創り上げていく教員の努力がまず何よりも重要でしょう。これまでも私たちは共通
教育や専門教育の改革、あるいは三重県や国連といった地域社会や学外機関との共同
研究などにとりくんできました。こうした努力をいっそう多様にまた広範に進めてい
く意志をもっています。そしてそのためにこそ研究費や研究旅費、施設・設備、事務
職員や技官といった研究支援体制など、予算と定員をそれにふさわしく充実させるこ
とが必要です。
 2.任期制のもとでは、大学教員の身分と生活が不安定なものとなり、安心して研
究教育に専念できなくなります。そのため継続的、系統的な教育研究の基盤が揺るが
され、長期的な活動のうえに成果が現れるような基礎的研究や独創的研究、あるいは
地域に根ざした研究はむしろ衰退します。身分保障のない大学にはかえって有為な人
材が集まりにくくなるでしょう。その結果、ほんとうに地域や国民に貢献しうる学問
研究の発展が阻害されてしまいます。
 3.「任期制」のもとでは、今以上に、業績の適正、公平な評価がなされず、若手
が研究教育内容について自由な発想で発言していく雰囲気が抑えられ、短期間で論文
の量を競うような「業績主義」が蔓延することが予想されます。そうなれば、系統的
な学生教育に対する手抜きも生まれます。そのことは地域や国民の声を反映させる努
力に水をかけることになります。それが国民にとって大きな損失となることは明らか
でしょう。
4.「任期制の導入は大学の選択による」とされています。しかしこれまで私たち
が経験してきた大学改革の経緯から考えても、また法案のもとになった大学審議会の
答申が「導入する大学には財政的な措置をとる」ことをはっきりうたっていることか
らみても、いったん法制化されれば、実質的には導入を強制されることは間違いない
でしょう。そうなれば、大学の研究教育活動にとって本質的に重要な「権力からの自
立」が今以上に脅かされることになります。
5.この法律は、「1年以上の期限をつけて雇用する」ことを禁じた労働基準法の
精神を崩すものであり、これが突破口となってすべての労働者の「任期つき雇用」に
道を開くおそれがあります。
 6.ユネスコが今秋に採択を予定している「高等教育教職員の地位に関する勧告案
」には、「終身在職権は学問の自由を保障するために不可欠である」と謳われていま
す。研究者を競争させて「課題」をこなさせようとするムチの発想ではなく、学問研
究の自由を保障しつつその能力を最大限発揮させるにはどうするかが考えられなけれ
ばならないでしょう。たとえば、若い助手時代には必ず一年以上の研究留学を保障す
るなどの施策の方が、「任期」をつけるよりもはるかに有効なはずです。今回の「任
期制」の法制化は、そのような教員の地位確立と研究条件や待遇の改善をはかってい
く世界的な趨勢に逆行します。
 以上のように、今回の「任期制」導入のための法制化は、私たち大学人にとっても
、そして国民にとっても重大な問題をはらんでおり、認めることはできません。私た
ちはここに三重大学教員としての意志を発表し、大学関係者ならびに国民のみなさま
のご理解をお願いするものです。
                    1997年4月25日
     三重大学教員有志
第1次賛同者
麻野雅子(人文)   阿閉義一(工)     泉琉二(教育)    伊藤隆司(教育) 
岩城俊昭(生資)   上垣渉(教育)    上野達彦(人文)   内田富儀(教育) 
大野研(生資)    河崎道夫(教育)    川島正樹(人文)   児玉克哉(人文) 
佐久間美明(生資)  櫻谷勝美(人文)   佐藤廣和(教育)   佐藤年明(教育) 
佐野和博(工)    島津秀典(人文)   関口秀夫(生資)   高山進(生資) 
武田明正(生資)   田中晶善(生資)   田中啓勝(教育)   丹保健一(教育) 
鶴原清志(教育)   手塚和男(教育)   冨野孝生(教育)   那須弘行(工) 
中村哲夫(教育)   新居淳二(教育)   西川洋(人文)    西村智朗(人文)
野崎哲哉(人文)   野田明(人文)    波場直之(工)    東晋次(教育) 
平石賢二(教育)   平田元(人文)    平野喜一郎(人文)  廣瀬英一(人文) 
藤田達生(教育)   星野貞夫(生資)   本田裕(教育)    松永守(工)  
森俊一(人文)    森脇健夫(教育)   山田康彦(教育)   山根栄次(教育) 
渡邉守(教育)    渡邉保博(教育)             (五十音順 )