学教員の「任期制」法制化に反対する声明
 政府・文部省は、昨年10月29日の大学審議会の答申『大学教員の任期制について』を
受けて、この度の通常国会に「大学の教員等の任期に関する法律案(仮称)」を提出し
ようとしています。大学審答申は「任期制」について、「大学における教育研究の活性
化を一層図る観点から、大学教員の流動性を高めるための方策の1つ」と説明していま
す。しかし、3年ないし5年の任期が過ぎれば自動的に教員の身分を失うという「任期制」
の導入は、わが国の大学における教育・研究の充実・発展に寄与するどころか重大な障
害になることは必至です。
 現在、わが国における大学の自治は、文部省の財政的誘導等により形骸化する傾向に
あります。こうした現状のもとで「任期制」が導入されると、極めて恣意的な業績評価
が行われ、大学の人事・管理運営がボス教授や学長・理事会に支配されていく恐れがあ
ります。大学自治・教授会自治の精神に反したこのような方向は、憲法23条で保障され
た学問の自由の著しい侵害、さらには基本的人権の蹂躙にもつながります。
 また、短い任期の間では、長期にわたる地道な研究や基礎的な研究がないがしろにさ
れ、より短期間で成果を出しやすい近視眼的な研究に偏ってしまう危険性があります。
研究業績を上げることにのみ気が取られると、教育がなおざりにされ崩壊することも目
に見えています。この結果、自由な発想に基づく、継続的で長期的な視野に立った
教育・研究活動は不可能となり、その将来の発展の展望も失われることになります。
 このような事態をもたらしかねない「任期制」導入の背景には、1995年11月に成立し
た「科学技術基本法」を受けて昨年7月に閣議決定された「科学技術基本計画」に基づく
科学技術政策があります。この「科学技術基本計画」は、産官学の連携をさらに強化し
主に財界の提言する「科学技術創造立国論」を実現するために、大学教員への任期制の
導入を打ち出しています。この政策通り進めば、大学の教育・研究が財界の意向に沿っ
て再編され企業の利益につながる研究に多大な資金が投入される一方、災害問題のよう
な地道で採算が合わない研究は顧みられない恐れがあります。
さらに、「任期制」法制化は、今後一般的な雇用問題にまで波及する可能性がありま
す。政府・財界は、任期付き任用を禁じている公務員法や1年を越える有期雇用を禁じて
いる労働基準法を突き崩し、大学・研究機関以外の職場・企業における安定的雇用をも
破壊する突破口として、「任期制」を位置付けているからです。そうなった場合、企業
の国際競争力強化というスローガンのもと、教育・研究者のみならずわが国の労働者が
常に不安定な雇用状態にさらされることになります。
 このように大学教員の「任期制」は、大学における教育・研究を財界の意向に従属さ
せ、学問の自由・大学の自治を侵害するだけでなく、国民生活全体に甚大な影響を及ぼ
しかねません。大学の教育・研究の発展のためには、「任期制」にとらわれないより広
い視野で様々な問題を検討する必要があります。特に今求められることは、国立大学に
おける積算校費や公立大学、私立大学への国庫補助の大幅な増額、教職員の増加等によ
る教育・研究条件の抜本的充実です。専任教員とともに大学の教育・研究を担っている
非常勤講師や外国人教員の任期制を問い直し、その適切な待遇を検討することも必要で
す。私たちはこうした立場から、「任期制」導入の危険性について広く国民に訴えると
ともに、その法制化に対して断固反対を表明するものです。
     1997年3月6日
        日本科学者会議熊本支部