2016.12.21 東京藝術大学の団交拒否と「偽装請負」

首都圏大学非常勤講師組合・速報」 uupltokyo.exblog.jp より

「最後の秘境」
東京藝術大学の団交拒否と「偽装請負」

東京藝術大学に対する敬意を込めて「最後の秘境」というタイトルを付けた本がベストセラーになっていますが、ここで言う「秘境」とは国立大学の中で人権意識が最も遅れた大学の一つという意味です。
非常勤講師を労働者として認めない国立大学は、他にもありますが団体交渉まで拒否するところは他にありません。

1 「業務委託」と称して労働者の権利をすべて否定

東京藝術大学では2016年度、専任教員が約230人、非常勤講師が約540人働いており、非常勤講師は教育の重要な部分を担っています。

平成16年4月1日に、国立大学が法人化された際に、これまで一般職の非正規公務員として「任用」されていた非常勤講師はいわゆる「パートタイム労働法」の「適用をうける」(平成16年3月15日文部科学省通知「法人化後における非常勤講師の給与について」)短時間労働者になりました。

この通知に従って大多数の国立大学では、非常勤講師独自の就業規則又は非常勤教職員共通の就業規則が作られました。
しかし、東京藝術大学は、就業規則の制定を怠りました。就業規則の代わりに平成18年3月23日に制定された「東京藝術大学非常勤講師等の業務の委嘱等に関する取扱要項」には労働基準法や労働契約法の適用が認められていません。

東京藝術大学の非常勤講師は、法人の業務の遂行に不可欠な労働力として事業組織に組み入れられており、使用者の指揮監督のもとで、勤務の時間や場所を決めて働かされ、その報酬は、時間単位の労働の対価として払われ、給与から税金の源泉徴収もされています。その実態は「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」という労基法第9条の労働者の定義に完全に一致しています。

にもかかわらず、東京藝大は、非常勤講師との契約を「業務請負」と称して、労働者と認めず、労働基準法・労働契約法及び労働組合法上の権利をすべて奪い、労災保険の適用さえ否定しています。このため、東京藝大では「切り捨て御免」の理不尽な雇い止めが横行しています。

10年前の2006年月末に、株式会社リーガルマインド大学の専任教員について、第164回参議院・行政監視委員会(2006.4.10)の質疑の中で、吉川春子議員が「請負ではなくて雇用労働者だと言う改善命令が出たという報告を受けております」と公表したことがありますが、いまだに国立大学で、専任教員よりもさらに労働者性の強い非常勤講師を請負扱いしていることには驚かされます。

2 広い意味での「偽装請負」

請負や業務委託契約によって、非常勤講師が独立事業者とされるためには・・・

①注文事業者から指揮命令されない独自の自由裁量権を持って業務を遂行する
②定時の出社、始業・終業時刻との拘束を受けない
③遅刻欠勤等について懲戒処分等に不利益を受けない
④注文事業者より服務規律、業務秩序等について指揮命令的な拘束を受けていない
⑤請負、受託常務の遂行について自分の代わりに第三者を使用することが禁止されていない
⑥給与として源泉徴収は受けず、事業者として報酬(経費込)を受け、事業所得としての税務申告を行う

・・・等々の要件を全て満たさなければなりません。
このような独立事業者の要件は、非常勤講師には全く当てはまりません。

したがって、非常勤講師を業務委託扱いすることは、企業に対する業務委託(請負契約)であるかのように偽装したいわゆる「偽装請負」ではありませんが、講師との雇用関係を独立事業者に対する業務委託(請負契約)であるかのように偽装した広い意味での「偽装請負」と言ってよいのではないでしょうか。

3 もし本当に「業務請負」なら、学校教育法に違反の疑い

しかし、学校教育法の規定上「大学の教学面の権限と責任は学長に委ねられていることから、日々の授業の実施についても、教育課程の編成等と同じく、学長の権限と責任の下で展開されることが必要」(文部科学省「大振8」)です。
このため「一般的には請負契約による講師は、学長の権限と責任のもとにおいて、自ら授業を行うことが困難であり、その役割は、授業を行う教員を補助する業務に限定される可能性が高い」(同上)とされています。

また、文部科学省が2016年6月に大学関係者に配布した文書(「大学が当該大学以外の教育施設等と連携協力して授業を実施する際の留意点について」)によれば、「成績評価」などの業務は、授業担当教員によって行われ、請負契約による従業員が授業担当教員となることはできないとされています。
東京藝大の非常勤講師は「特定の授業、成績判定又は大学の行う研究教育を行う」ことが義務付けられています。もし本当に東京藝術大学の非常勤講師が「業務請負」ならば、学校教育法違反の疑いが濃厚になります。

4 「切り捨て御免」の雇い止めやコマ減に抵抗始まる

非常勤講師・Kさんは、2002年度より東京藝術大学でドイツ語授業を計2コマ担当し、2010年度からは計3コマ担当させられてきましたが、2015年度から正当な理由も告げられないまま配置転換とコマ数2への削減を命じられ、さらに2017年度からは「若い人と入れ替えたい」とコマ数1への削減を命じられました。

5 ついに二度の団体交渉拒否

これに対しKさんは同意せず、首都圏大学非常勤講師組合の組合員として、団交を要求しました。しかし、東京藝術大学は、団交の事前の話し合いには応じましたが、コマ数削減通告を撤回せず、団体交渉を拒否しました。他にも、非常勤講師が労働者であることを認めない大学はありますが、団体交渉さえ拒否するのは、東京藝術大学だけです。そのため組合は、12月6日に不当労働行為の救済を東京都労働委員会に申し立てました。
また、多くの学科で「連続更新年限3~6年程度」の上限が設けられているため、多くの非常勤講師の雇用継続が脅かされています。そのうち1名の雇用問題で当組合が団交を要求しましたが、これも拒否されました。

6 全国の状況

全国の86国立大学のうち、非常勤講師との契約を「業務委託契約」「準委任契約」などと称して雇用関係を認めない大学が東京藝大、東京大学、東京工業大学、大阪大学など約10大学あります。
当組合は、この問題に関して調査を進め、労働委員会、労基署などの公的機関に救済を求め、国会質問で取り上げてもらうことも検討しています。